よく考えられていない モノづくりのまち 東大阪市の総合計画
ものづくりのまちとは何か
ものづくりのまちの根拠 - 東大阪市第3次総合計画 基本構想
東大阪市はモノづくりのまちであると標榜していますが、その理由が、実は、よく考えられていません。
この問題を東大阪市第3次総合計画(2020年7月策定)のパブコメの意見から考えていきます。
この計画は3層に分かれていて、この最上位(上流工程)にあるのが「基本構想」です。
市は、市議会の議決を経て、令和元年(2019年)12月20日、この「基本構想」を策定しました。
この構想の策定に先立ち、市はパブリックコメントを実施しました。
東大阪市のパブコメ問題
現在、このパブコメは市のホームページから完全に削除されています。まるで、パブコメが無かったかのようです。
他のサイト(WARP)を使えば閲覧できます。
次のURLから関連ファイルをダウンロードできるようにしました。
パブコメの学習のためであれば、iken.pdfファイルが役に立つかもしれません。
私はパブコメに意見を投稿して採用されましたので紹介させていただきます。
9.地に足をつける
10.ブランド戦略について
1.パブコメの修正前(素案)の内容
基本構想の2章計画策定の背景>第1節 東大阪市の特徴>3.モノづくりのまち、についてです。
基本構想の素案(パブコメ用に公表された案)には、モノづくりのまちの根拠を述べる箇所があり、そこには次のとおり記載されていました。
(次は、文字データ)
3.モノづくりのまち本市は、全国の市区町村の中で第5位の製造業事業所数を有するモノづくり企業の集積地であり、個々の企業が持つオンリーワンの技術は、雇用と豊かさを生み出す原動力となっています。
(次は、写真データ)
2.私が提出したパブコメの意見
上記(素案)に対して、私は次のとおりパブコメにて意見を申し上げました。
東大阪市の製造業事業所数が大阪市の3分の1の規模であり、全国で第5位であるというデータを示しておきながら、東大阪市はモノづくりのまちであるという評価を下すのは無理があり説得力を感じません。データの見せ方について工夫をしてはどうでしょうか。
3.パブコメの修正後(正式版)の内容
上記意見に基づき、市は次のとおり修正しました。
(次は、文字データ)
3.モノづくりのまち市内の製造業の事業所密度は全国第1位であり、モノづくり企業の集積地となっています。個々の企業が持つオンリーワンの技術は、雇用と豊かさを生み出す原動力となっています。
(次は、写真データ)
4.意見が反映される理由
上記のように、市民がパブコメで指摘をすれば、役所が作成した(素案)とはいえ、修正される余地はあるということです。
意外なのは、東大阪市はモノづくりのまちであると標榜してきたにも関わらず、その説明理由が、実は、よく考えられていなかった、ということです。
あまりよく考えられずに計画が練られている、ってことが分かっただけでも、最低限の知的収穫があったのかもしれません。
5.意見が反映されない事業
市民の意見が全く反映されない事業もあります。
「東大阪市は何故ラグビーのまちか?」の問に対する市役所の説明は、何の合理性もありません。
合理性の無い事業に対して、根拠を問いただしても、まともな回答は返ってきません。
意見を提出しても採用されることはありません。
このような場合は、反対意見のパブコメを提出して、それに対する市の考え方を引き出すしかありません。合理性の無い市役所側の説明を公開する、ということです。
6.根本にある考え方を整理する
「東大阪市は何故モノづくりのまちなのか?」
この議論は、抽象論であり、直接的には市民生活には影響を及ぼしません。
ですが、仮に社会情勢が曲がり角になったとした場合、基本的考え方を根拠に政策を見直すことになります(ここは重要)。
その場合、この「何故モノづくりのまちを標榜したのか」という根拠が問われることになります(本来ならば)。
そういう意味で、そもそも論の議論は重要です。
(素案)の考え方であれば「事業所数」が重要になりますし、完成版であれば「事業所密度」が重要になります。
市役所としては、それらが重要指標であると定めたのですから、例えば、経済危機に陥り、新規施策を講じなければならない場合などには、この指標について議論されることになるハズです(本来の、議論のあるべき姿としては)。
もっとも、これらの指標が真の意味で重要であるのかという疑問があります。
事業所の数が多いことが重要であると考えるのであれば、事業所のM&A(合併や買収)を行おうという発想は生まれにくくなります。経済合理性を追求するための選択肢が狭くなります。
7.自分なりに考えてみる
パブコメは、書くことが必要なのですが、それ以前に、社会事象に対して、自分なりに考えることがもっと重要です。
産業の進展と成果、そして地理的条件を時系列で説明するのが順当です。
「産業の進展」、「地理」、「時系列」というところが重要であり、それらは原因と結果などの相互の関係性があります。
関係性を理解しておけば、経済危機等のトラブルが発生した場合、問題解決の仕方を論理的に導き出せます。
また、そのような関係性や思考方法を学習できれば、他の分野への応用も期待できます。
8.東大阪市役所の英雄崇拝思想
東大阪市役所は、事業所密度が全国第1位であることをもって、モノづくりのまちであると標榜しています。
東大阪市役所は、なにかと1位になることが望ましいと考えているようです。
この発想は、東大阪市教育委員会発行のテキスト「未来市民教育 夢TRY科」にも書かれています。
医学研究者 山中伸弥さんは、ノーベル賞受賞、囲碁棋士 井山裕太さんは七大タイトル制覇、陸上競技選手 多田修平さんは金メダリスト。
これらの人達が称賛されています。
このような英雄をもてはやす発想は、2009年の事業仕分けの際に蓮舫議員が発言した「2位じゃダメなんですか?」を連想させます。
10年後(次回)の基本構想時における事業所密度の順位が2位以下だった場合、市役所はどのように説明するのでしょうか。
2位以下でも、モノづくりのまちだと言い続けるのでしょうか。
モノづくりのまちの標榜をやめるのでしょうか。
それとも、別の指標を探し出すのでしょうか。
1位じゃなければならない理由は、市のブランド戦略のためです。
市民自体が、ブランド価値を高めるための商材候補なのです。
多くの一般市民は、実際問題として、有名になれるわけがありません。
市民は日常を生きているのであって、囲碁やスポーツといった趣味・娯楽などの非日常を生きているのではありません。日常を普通に生きていて、1位などになれるわけがありません。
市役所目線からすれば、無名の一般市民はブランド価値が無いということです。囲碁やスポーツといった趣味・娯楽などを一生懸命にやって、一位になれば、ブランド価値が高まるという発想です。
9.地に足をつける
議論として本来あるべきなのは、「東大阪市において何が重要なのか」ということです。
仮に、全国で2位以下であったとしても、東大阪市において重要であると判断すれば、その事業を行えば良いのです。全国と比較するという発想が間違っています。
おそらく市役所職員は「選択と集中が重要であるため、何に集中すべきか、強みを述べたのです」とでも言うのでしょう。
しかし、「事業所密度全国1位」は現象であって、それが経済的な優位性を示しているのではありません。生産性の低い事業所が多い可能性だって考えられるのです。
社会経済的な強みを意味しない「事業所密度全国1位」を、強みであるかのように振る舞っているのです。ただ単に「数が多い」と言っているだけです。それを根拠に「モノづくりのまち」というブランド価値を高めようとしているのです。
総合計画は、若い世代の人たちのために、政策論議ができやすいようにまとめていくのが本来あるべき姿です。なので、本来は、内容は合理的であり、学習材料であり、地味です。
この東大阪市第3次総合計画を読んだところで、今後の東大阪市のあるべき姿を正確に議論することはできません。東大阪市の政治権力を手に入れた者達が「ラグビーのまち」を正当化したいための構想なのです。
10.ブランド戦略について
「モノづくりのまち」や「スポーツのまち」はブランド戦略です。
ブランド戦略とは、他人からどのように評価されるのか、を気にする戦略です。なので、全国と比較する、という発想が生まれます。
ブランド戦略は、思慮が十分ではない人達を相手にする戦略でもあります。意義があるかのように雰囲気を醸成して、物事を考えさせず、アオられやすい人をアオっていく。ノリやすい人をノセていく。
こんなことは公共機関が行うべき事業ではありません。
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(参考)